山田太一さんが鳴らした警鐘

終戦60年企画のTVドラマで

この作家のドラマを私は平常心で見ることができません。「さん」なしの呼び捨てにすることもできません。山田太一さんは私にとってそういう人です。

テレビ朝日の特別番組『終りに見た街』は、23年ぶりのリメイクで前作と物語の展開はほぼ同じ。ラストの衝撃的なシーンまで見たところで、山田さんはどうしてもいま、再び伝えたかったんだ!と思わずにいられませんでした。

東京郊外に住む40代の男とその家族、友人父子が、ある日突然昭和19年の戦時中にタイムスリップして数ヵ月を暮らす話。

出征兵士の壮行会、もんぺ姿の女学生、飛散防止テープが×印に貼られた窓ガラス。そこへあらわれた異形のかれらに不審の目を向ける「その時代」の人たち。町内会の役員や婦人会のおばさん、軍人。一同は生き抜くために髪を刈り戦時に同化した生活を始める。大丈夫、いずれ終わるんだから。

歴史書どおり戦争は泥沼化し生活が困窮していく。食べ物を恋しがって泣きじゃくる小学生の息子、わずかな食糧を手に入れるために卑屈になる父。

でも彼は考える——8月にこの戦争は終わるが、3月に大空襲があることも歴史の事実だ。そのことを人びとに事前に知らせて犠牲者を減らそう。それができれば、自分たちがいまこの時代にいる意味がある——。家族も手伝ってチラシを1枚1枚、手書きで制作する。それを周囲の目を気遣いながら投函。

一方思春期の子どもたちには予想外の変化が。友人の息子が「お国のために死ぬことがなぜ悪い」と声を荒げるような「軍国少年」に変身し、男の娘も同調する。時代がもつ、地域の教育力にがく然とする親たち。

結局男のたくらみは失敗に終わり、ドラマはハッピーエンドにならず前作と同じく救いのない、戦慄の結末を迎えます。23年前と違うのは、核の問題を抱える現代ならありうると思えてしまうこと。暮らしのリアリティをていねいに紡ぐ山田さんの筆が必然的に、現代に鳴らす警鐘を描き出しているのでした。

写真・青梅街道のイチョウがやっと黄色くなりました。