40年前の時代劇映画『上意討ち』を見直す

小林正樹監督が描いた 主張する女性

TVをつけたらタイミングよく始まった、1967年製作の時代劇映画『上意討ち』に、思わず見入ってしまいました。白黒画面の硬質な構図、引き締まった緊張感や様式美は、この映画が凡庸な作品でないことを示しています。

昔見てストーリーは知っていましたが、改めて気がついたのは、三船敏郎と仲代達矢が斬り合う映画だというだけでなく、司葉子演じる若い嫁を、自らの尊厳を保つため死ぬまで意志を貫く女性として描いた物語、だということでした。

彼女は、藩主の殿様に気に入られたばかりに人生を狂わされてしまいます。許婚者との仲を裂かれて側室の座にすえられ、殿の子を生んだ後は城を追い出されて藩内の若い侍に妻として押し付けられ、城内に置いてきた子が藩の跡取りになると決まると、今度は若君のご生母だからと城に連れ戻される・・・。

一見、封建制度に運命を翻弄されるだけの無力な女性であるかに見えて、しかし彼女は人生の転機において自分の意思をちゃんと表明するのです。城を追い出される原因となった「事件」は、彼女が城を留守にしていた間に、藩主のわきに一点の悲しみもなく無批判に、隷属的にはべっていた若い娘に対する、嫉妬とは異なる怒りから起こした暴力沙汰です。

また、城に戻るよう婚家の姑や親戚から圧力をかけられたときには、一同を前に、自分はこのままこの家でずっと暮らしたい、と明言します。それが婚家を窮地に陥らせるとわかっていて、です。もっとも彼女にそう言わせたのは、加藤剛演じる優しく実直な夫と、彼女に「こんな家など潰しても惜しくないほど過ぎた嫁」と愛情を注ぐ三船敏郎の舅の存在があったからですが。

それにしても、人間性の復権を求めて主張する女性が40年前の時代劇に登場していたとは知りませんでした。

監督は『人間の條件』の小林正樹、脚本が黒澤作品を多く手がけた名ライターの橋本忍、控えめで見事に気品のある音楽は武満徹でした。