歌は人を幸せにする、というメッセージ「歓喜の歌」

落語の原作を超えたかも

映画『歓喜の歌』は、これという産業も観光の目玉もない、ある地方都市の市民ホールを舞台にした、暮れの2日間のドタバタ劇。立川志の輔の創作落語が原作だそうです。ホール側のミスでダブルブッキングに巻き込まれた2つの女声コーラスグループが、困難を乗り越えて合同コンサートを成功させる物語です。

コーラスを愛する中高年女性たちがみんなすてきで、「歌は人を幸せにする」というメッセージがじわっと伝わってくる点はきっと原作を超えたのではないかな。ステージでの合唱シーンは落語にはない、映画ならではの迫力だと思うから。

庶民派とちょっとセレブ派。職種も暮らしぶりもさまざまな、介護ヘルパー、ラーメン屋のおばちゃん、スーパーのパート、ファミレスのウェイトレス、会社社長、市長夫人・・・たちの生活のディテールが垣間見え、おかしかったり切なかったり。

私がいいなと思った場面が2つあります。ひとつは合同コンサートができるのか、「セレブ」グループが「庶民」グループの実力を見定めるためにテストするシーン。

「庶民」の歌うのを聴いた「セレブ」がその音楽性に感心し、リーダーの社長は、ソロを歌った女性が自分の店のパート社員だと気づきます。そして彼女に歩み寄って「あなた、いつ練習してるの?」と驚いてたずねる場面では、音楽を通して尊敬の気持ちが芽生えたことが、見ているこちらの気持ちを温かくします。

もうひとつの場面は、コンサート本番、ベートーベン「第九」の合唱シーン。両グループが入り混じってドイツ語で歌う場面は、映画のクライマックスとしてちゃんと見せてくれます。安田成美の指揮はまあまあだけど、晴れやかな笑顔が何よりだし、歌う女性たちの立ち姿や口の開け方、呼吸のしかたが「ウソじゃない」、声楽の特訓を受けたであろう確かさ。合唱の魅力がわくわくするほど伝わってきます。

小林薫、由紀さおり、藤田弓子はほかの配役が考えられない、適役。怪優の片桐はいりが市長夫人役だったりする意外性も。楽しめた映画でした。