原初の人ヤノマミ 奇跡か神秘か

2009年3月1日 13時09分 | カテゴリー: 映画・オペラ・おたのしみ

森に生まれ 森に食べられ 森を食べる

NHKテレビはときどき、信じられないようなものを見せてくれます。

アマゾンの森の奥深くに1万年前と同じ暮らしをいまも続ける「ヤノマミ」という人たちのことを、2月26日BSの番組で初めて知りました。日本人スタッフが150日間現地に入って撮ったという映像の放つ衝撃は、ヒトと自然の神秘そのもの。

出産の場面がとくにショッキングです。ヤノマミにとって子どもは森の精霊。出産が近づくと森に入り、村の女たちの協力で産み終えると、女はその子を「人間として育てるか精霊として森に返すか」、自分で決めるのです。

へその緒がついたままで産声をあげている赤んぼを地べたに置いて、育てると決めるまでは抱き上げようとしない母親。周囲の女たちが何か助言することはなく、夫などは出産に関与しないどころか関知もしません。

14歳の未婚の少女の場合ですら、両親は「本人が決めること」という。少女は生まれたばかりの子を「森に返し」、精霊になった子と胎盤は森のアリに食べさせます。村の長老によれば人間の男が死ぬとやがてアリになるのです。

サル狩りは、子どもから大人までの男女総出による小旅行。子どもがサルの頭にかぶりつくシーンで食料とわかります。首を落としたあとの胴体は真っ黒に焼いて村に持ち帰り、共同住居の吊り棚に積み上げられます。

子どもは4〜5歳まで名前がなく、性器を意味する言葉で男女を区別するだけ、ただ女の子には「偉大な」という意味の言葉がついて呼ばれます。

森に生まれ、森に食べられ、森を食べる。ただそれだけの存在としてそこにあった。ヤノマミとは、かれらの言葉で「人間」という意味。

というようなナレーションで番組は終わります。語り手は田中泯。映画『たそがれ清兵衛』の剣客役で鬼気迫る怪演を見せた、異色の舞踏家です。

21世紀の奇跡ともいえるヤノマミの日常が、俗悪なキワモノに堕することなく神話の世界のように荘厳に描かれ得たのは、誇張や装飾を排し言葉を選びぬいた台本と抑制されたナレーションによるところ大と思います。