『愛を読むひと』が『朗読者』を超えるとき

2009年8月2日 09時03分 | カテゴリー: 映画・オペラ・おたのしみ

ベストセラー小説の映画をみる

1年半ほど前わが家のすぐ近くに区立図書館がオープンし、初めて借りた本がベルンハルト・シュリンクの『朗読者』でした。世界的ベストセラー小説ですがストーリーについてほとんど知らなかったので、予想を超えた展開に引き込まれました。翻訳者のあとがきに「この作品は2回読むべき」というようなことが書いてあり、気になりながらそのまま返却しました。

『愛を読むひと』は『朗読者』のほぼ忠実な映画化作品です。ただ本来はドイツ語のところを全編英語のため、主人公の男性「ミヒャエル・ベルク」は英語読みの「マイケル・バーグ」となり、ずいぶん印象が違います。

ついでにいうと「愛を読む」というタイトルはどうなんだか。私の好みかもしれませんが説明しすぎだし、原作のいかにもドイツ文学の質実剛健にして硬質的な響きのある「朗読者」のほうがずっといいと思うのだけど。

ケイト・ウィンスレット演じるハンナは、息子ほどに歳の違う少年を夢中にさせる魅力より、だれにも頼らずに自活する、独立した女性が決してスマートではなく愚直に生きる姿を見せて、素晴らしいと思いました。

女が少年の前から突然姿を消したのも、のちに過去の罪をひとりで引き受け重刑に処せられるのも、彼女のひた隠してきた秘密のため。だからこそ秘密を知った少年の苦悩もまた、ひた隠されることになります。

少年の日に無邪気な「朗読者」だった彼は、秘密を知った後の中年期に再び「朗読者」となります。かつてナチの犯罪に加担したことにより長く獄中の人となった女に、古今の文学作品を録音しテープを送り続けるのです。

しかしやがて女は思わぬ形でその人生を閉じ、男に課題を残します。その決着をつけるため、男はホロコースト生き残りのユダヤ人女性のもとを訪れるのですが、この場面での女性の「ホロコーストを許さない」というメッセージが物語の背景を厳然と伝えます。

ユダヤ人女性の母娘2役を演じたレナ・オリン、中年の男を演じたレイフ・ファインズははまり役。でも初々しい少年を鮮やかに印象づけたデイヴィッド・クロスもなかなか。俳優のパフォーマンスを楽しめるのは読書とは異なる面白さです。