ザルツブルクのオペラな日 『オルフェオとエウリディーチェ』

ヨーロッパの旅中より①

夜の観劇にはコートが必要。ザルツブルクの劇場街にて
夜の観劇にはコートが必要。ザルツブルクの劇場街にて
熱帯地方と化した日本を離れて、スイスとの国境に近い古都に来ています。ザルツブルクはいま最高気温が20℃ちょっとくらい、東京の5月か10月ごろの気候でしょうか。音楽祭のオペラを連日満喫しています。

1920年に最初の音楽祭が開催されて90周年に当たる今年は、リームという現代作曲家に委嘱した新作オペラ『ディオニソス』が目玉作品のひとつですが、現代ものは敬遠されるのか、チケットが売れ残っています。

一方グノーの古典作品『ロミオとジュリエット』は人気ソプラノのアンナ・ネトレプコが主役を歌うこともあって完売、私もキャンセルが出るのを待っていますが多分ダメでしょう。

7日にみたのは18世紀の作曲家グルックの『オルフェオとエウリディーチェ』。旧約聖書に材を採ったオペラです。

吟遊詩人、というか弾き語りの旅人であるオルフェオが、妻エウリディーチェの死をあまりに嘆き悲しむのでエロスの神が条件つきで妻を生き返らせてやるが、その条件の厳しさに耐えかねて掟を破った夫は罰を受け・・・うんぬん、というストーリー。

グルックの時代にはカストラートという去勢した男性歌手がオルフェオの役を歌いましたが、現代ではときに男性のカウンターテナー、ほとんどメゾソプラノが歌うことが多く、今回演じたのも地元オーストリアの女性歌手。ザルツブルク生まれのエウリディーチェ役ソプラノとともに、若い歌手たちは土地の観客から熱い拍手を受けました。

おもしろかったのは、オルフェオの心の内面をニンフたちがあたかも彼の分身のように「演じて」絵解きして見せたこと。気鋭の演出家クラウス・グートがモーツァルトの生誕250年記念制作の『フィガロの結婚』で、作中人物ケルビーノの分身として「歌わない役」ケルビムを登場させ、このオペラをまるで心理劇のように見せた手法がここにも影響を与えているのかな、と思いました。