『レ・ミゼラブル』 敗北…しかし明日は来る

バリケードにフランス国旗がはためく

私のお正月休みの楽しみは、家族が集まる元旦以外は映画とオペラ。今回みた映画は『レ・ミゼラブル』、20年以上前ニューヨークに住んでいたころブロードウェイで舞台版を2回観て感動し、全曲盤のCDを繰り返し聴いたミュージカルです。映画版をぜひ観たいと思っていました。 

ミュージカルそのものが、フランスの文豪ヴィクトル・ユゴーの原作を手際よく2時間ものにまとめあげた、よくできた台本と音楽でできているので、よほどのことがなければ駄作になりようがないはずです。そして…期待通りの、良質の一級品でした。 

トム・フーパー監督がこの作品をどんなに深くリスペクトしているか、それが全編から感じ取れます。配役がぴったりだし、吹き替えでなく同時録音にしただけあって臨場感ある歌唱。監督のこだわりが功を奏しています。アン・ハサウェイの独唱(オペラでいう“アリア”)場面がほとんど顔の大写しに終始したのには少し違和感がありましたが、俳優たちの歌唱はいずれも聴かせます。 

何より、ジャン・バルジャンを演じたヒュー・ジャックマンの渾身の演技は一見の価値があると思いました。 

フランス革命後のパリ、下町の不潔で猥雑、下品な空気感や市民の貧しさはさすがに舞台よりリアルに映し出されるから、愛国心から情熱に駆られた学生たちが蜂起するドラマには説得力があります。 

学生たちが民家から集めたガラクタ家具を積み上げてバリケードを築き、鎮圧軍と戦うクライマックス場面。力強いコーラスがぐっと胸に迫ったそのあと…。町を挙げて援護してくれるとばかり思っていた市民に拒絶されたことを知った学生の虚無感には、去年の選挙の敗北感と重なる部分があり、こたえました。 

自由を求めてかなわず多くの仲間を死なせてしまった青年が悲嘆にくれる場面にこれほど共感を覚えるなんて。

しかし。映画のラストで登場人物たちはバリケードの上で再び高らかに歌います。その歌詞は「苦しみの炎がいつか消え戦いの終わりがきっと来る、明日は来る」、Tomorrow comes! というもの。やはりこれでしょう。最後は希望で終わらないといけません。

ところでユゴー文学はいくつかオペラ化もされています。ヴェルディの『リゴレット』もそう。私の好きなオペラです。ヴィクセルが主役、グルベローヴァとパヴァロッティが共演した1983年製作の映像版ディスクを改めて観て思ったのは、後世に残るオペラはみな台本が優れていること、さらにその原作の骨格がしっかりしていることでした。音楽が魅力的でなければならないのはもちろんです。