生き延びることはクールだ! 『ロープ』が映す紛争地の日常

戦争映画は苦手です。戦中を描くならドキュメンタリーか、『父と暮らせば』や『この世界の片隅に』のような、「暮らし」を見つめた作品にひかれます。この映画『ロープ/戦場の生命線』は、どちらかと言うとロードムービーに近いかもしれません。

舞台は1995年バルカン半島のどこか。紛争地で国際援助活動に携わる人たちの1日を追います。井戸に投げ込まれた死体を引き上げるため、「国境なき水と衛生管理団」というNGOの人たちがロープを求めて車を走らせる。

現地は表向きには停戦が成立したところ。一行はNGOメンバーに通訳、国連査察官の男女5人に現地の少年も加え車2台でロープ探しの旅に出ます。集落は廃墟とがれきの山、荒地は地雷原と化し、停戦とは名ばかりで命の危険なしには進めません。

けれどそれが日常である彼らにとっては、ユーモアもジョークもあり、勘と経験、機転でその日を生き延びる。恐怖の場面にも遭遇する。でも、銃はなくてもしたたかに、国際貢献の任務を遂行する彼ら。

思わぬ形でロープが手に入り、ようやく死体を引き上げますが、そこへやってきた国連PKOの手によって、理不尽としか思えない理由でなんと再び井戸の底へ沈められてしまいます。

けっきょく最後のシーンであっと驚くしかけによって死体は引き上げられるのですが、そのオチが、人間の行いへの風刺にもとれ含蓄に富んでいます。原題は『A PERFECT DAY(ある完璧な一日)』、これもいいけど『ロープ』というタイトルも悪くないと思うのは、この最後の場面のせいです。

今も地上のどこかで、こういう非武装の活動家が地味に、ふだん着で体を張り、お金ではなく人の暮らしの向上のために、目の前の障害物を一つひとつ取り除いている。世界の安全て、きっとこの人たちのような現場職人が仕事をきちんと全うすることで保たれているのかもしれない。――そう気づかされる映画です。