硫黄島の手紙をブッシュ氏はどう見るのだろう

敵国の視点から描いた映画

暮れから新年にかけてみた3本の映画、『麦の穂をゆらす風』『武士の一分』『硫黄島からの手紙』について。いずれも話題の映画です。

『武士』は貧しくつましい暮らしと下級武士としての日常がていねいに描かれたところがいかにも山田洋次監督のしごと。視力を失った木村拓哉の主人公が木刀を振るう場面で背中に必死さが表れていてなかなか。評判どおり期待を裏切らない演技で、新たなファンを増やすのに違いないと思いました。

『麦の穂』と『硫黄島』はどちらも戦争映画というだけでなく、ケン・ローチとクリント・イーストウッド監督の視点に共通するものがあります。自分の国がかかわった戦いを、徹頭徹尾相手の敵国の側から描いている点です。

たとえてみれば日中戦争の映画を、全員中国の俳優を使って全編中国語で、実在した中国人をモデルに中国の物語として「日本人が」制作するようなものです。両監督とも自国の友人を失うことになったのではないでしょうか。

創造活動するということはいつか必ず自分をさらけ出すときがあるもの。政治的な問題を扱う場合、そのときどこに軸足を置きどこまで自分を追い詰めるか、その覚悟のほどが作品の力となって表現性を高めるように思います。

戦争の時代、青年の成長と兄弟のきずな、それらを巻き込んで容赦なく進行する歴史の凄惨、『麦の穂』。『硫黄島』の渡辺謙は役の造形がすばらしく、これほど魅力的に人物像を演じ上げたのは確かに一流の俳優と感心しました。

このラストシーンが印象的。島で戦死あるいは自爆して逝った兵士たちからの届かなかった手紙の束です。島で書かれたまま、島の外に出ることのなかった手紙を、イラクへの派兵増員を決めたブッシュ氏はどう見るでしょうか。

『硫黄島』がイーストウッド監督のイラク戦争批判だろうということは想像がつきます。もし大統領がこの映画を正視できるとしたら相当な鈍感だと思う。