『グラン・トリノ』は、同監督が俳優を育てることにおいても一流なら、かれ自身俳優としても一流とあらためて感服させられる最新作です。
イーストウッド演じるゴリゴリ保守的にして人種差別主義の頑固老人は、隣家に越してきたアジア少数民族の少年と、人種や年齢の差を越えて初めはいやいやながら交流を深め、やがて否応なく変化していきます。
宝物のように大事にしている車“グラン・トリノ”を盗もうとした少年、その少年を撃とうとした老人が、小さな出来事を重ねるうちに徐々に心を通わせてゆくというストーリーは、ある意味安心して見ていられます。
朝鮮戦争の帰還兵にして大フォード社の誇り高きもと熟練工、という設定が効いています。老人は自分の死期が近いことを知り「人生をどのように収めるか」、少年との関係がひとつの決断をさせます。
未見の人のため驚きのクライマックスについては書きません。ただ、これを個人的行動としてのみ見るのはつまらない、というかそんな浅い見方をするのはもったいないと思う。イーストウッド監督は、たとえば「国としての非暴力」の価値をああいう形で示唆したのだろうと思うのです。
老人は最後に大きな贈り物を残します。少年にも観客にも。エンディングのシーンでイーストウッドのしわがれ声の歌が流れるのは意外でしたが、ほかの誰にも真似のできない、味のある歌唱だったことは確か。
そういえば彼は、『ミスティック・リバー』にしても『ミリオンダラー・ベイビー』にしても、映画音楽にも才能を発揮しているのだった。ただしこの『グラン・トリノ』の音楽は息子のカイルが担当しています。