ところで師走のまちのどこかからベートーベン「第9」の中の1節が聞こえてくると、歌いたくてたまらなくなることがあります。10年ほど前プロのオーケストラ専属の合唱団に所属していたとき「第9」を歌う機会がありましたが、出演オーディションに落ちたため、以来歌うことがなくなってしまいました。
まさか落ちると思っていなかったので、4〜5ステージもある本番に備えてドイツ語の歌詞を全部おぼえ、暗譜もしたのに、オーディションのときに限って隣のアルトのパートを歌ってしまったのです。そのときは「第9」ならいずれ歌うチャンスがあるだろうと思っていましたが、今に至るまでそれはなく・・・。
ある年の12月はヘンデルの「メサイア」を本番5ステージ歌い、モーツァルトの「レクイエム」を歌った年もあります。もうあのころのようなソプラノの声は多分出ないけれど、またいつか歌にどっぷり浸って年を越すのもいいなあ・・・。
と思いつつ、杉並公会堂の「第9演奏会」をパスして駒場の小さな芝居小屋へ、友人のパントマイミスト(パントマイムをする人のことをこう呼ぶのだそう)、山本さくらさんの公演に出かけました。
ここ数年、さくらさんが創り出した愛すべきキャラクターたちに魅せられ、私は彼女のパントマイム公演の常連客です。でも今回のステージはパントマイム公演と言うよりモダンダンス。イプセンの『人形の家』にヒントを得た作品のようです。
ひとりの女性の閉塞感と解放、束縛と自由・・・を見て、見当違いかもしれませんが一度舞台を見たことのあるピナ・バウシュのダンスを連想しました。静かだけれど雄弁、ストイックだが奔放で、身体が「しゃべる」。生身のパフォーマーによるライブだからこその面白さが、そこには共通してありました。