86年の6月から米国での新しい生活が始まり、原発事故のことはTVニュースで報じられても内容はよくわからないまま、でもそれで困るわけでもなく過ごしていましたが、1年以上過ぎた秋の日、あることに気がつきました。
スーパーの特売商品として山積みにされているスパゲッティやバタークッキーがいくらなんでも安すぎること、それらがすべてヨーロッパからの輸入品でそれまで見たことのない、ふだんは扱われていないメーカーのものであること。
いつもなら1箱1ドル、特売のときでも2箱1ドルするパスタが4箱、5箱で1ドルだったり、缶入りのバタークッキーがやはり3分の1から4分の1の価格だったり、ほかにもヨーロッパ産の菓子類や乳製品、農産物製品がそのころ、あちこちの特に低所得者向けスーパーで大放出されていたのです。
もしや放射能汚染の恐れうんぬんの表示があるかと探しましたが見当たらず、また超安値だからとよく売れていたようでもなかったのですが、特売の山はいつか消えていました。町のイタリアンデリカテッセンが買い取ったのだとしたら、いずれ私や子どもたちの口にも入ったことになります。
その後しばらくして、同じころ日本では放射能汚染された欧州産穀物・農産品の輸入拒否運動が起きていたと知り、あれはやっぱり汚染されたものを安値で処分しようとしていたのだと確信しました。
BSE研究の第一人者、福岡伸一さんは、リスク論を持ち出して食の安全優先主義を過小評価する論調に対し「食にコンシャスでない人にしわ寄せがいくしくみ」と批判しています。知らない人・無関心な人に情報を隠してリスクを押し付けようとするしくみは、食に限らずたとえば耐震偽装にも言えることです。