今よりもっと若かった彼は、出産で恋人を亡くしたショックから息子を人に預け15年間会うこともなかった。でもミュンヘンにいる息子をベルリンまで連れて行くことになり、重い障がいを持って生まれてきた彼と二人の旅に出る——。
ストーリーといえばそれぐらいですが、旅の途中で出会う人との交流や小さなハプニングの積み重ねが父と少年の空白を埋め、ふたりの距離を近づけていく様子があたたかく優しいまなざしで描かれています。
自身障がいを持つ少年のおどろくほど自然な演技が見事だし、問題のある子どもと接し戸惑いながら父親としての自分を見いだす青年の姿に、旅が成長させるのはむしろ大人のほうなんだ、と気づかされます。
病院で寝たきりの娘を世話している母親役のシャーロット・ランプリングが一言、ぎくっとするような重い台詞をいう場面があります。そのとき私の真後ろの席で「はっ」と息を吸う気配がし、きっと私と同じことを感じたのだと思いました。
イタリア映画は久しぶり、そういえば以前見たイタリア映画にも『息子の部屋』という父と息子の物語があったと思い出しました。家族の絆を信頼し肯定的に描いているところも見終わった後深く印象に残る点も、共通しています。