絶頂期と遜色ないとは言わないまでも、オペラでひとつの役を全幕歌い切るのは難しいにしても、ときどきこんな風に現れて数曲歌うだけならまだ十分現役で通るなあ、と思っていたのに。病気が彼を天国に連れて行ってしまいました。
パヴァロッティの声の明るさといったら、イタリアの太陽にたとえる人もいるけど、まるでトランペット、金管楽器のよう。ほかのだれの声とも全く違っていて、だれよりもイタリアン。悪いけどフランス歌曲を歌ってもイタリア語に聞こえるほど。
あの巨体だし決して身軽ではなく、むしろ不器用で演技はドミンゴさまのようには上手くないのに、テノールとしてイタリアオペラの2枚目役でトップスターの座にあり続けたのは、「あの」声がほんとうにすばらしかったからなのです。
艶やかで快くどこまでも伸びる、まぶしいほど明るい声にはずいぶん元気をもらいました。相手役としてよくコンビを組んだソプラノのミレラ・フレーニとは、モデナという町の同じ町内に住む幼なじみだった、というのは有名な話です。そのモデナの自宅で亡くなったそうです。
ドミンゴもフレーニも、まだ71歳だった巨星の死を悼んでいることでしょう。