『マルタのやさしい刺繍』 夢をかなえて自立する80歳

あんなおばあちゃんになりたい

議会が終ったら観に行こうと決めていた映画のひとつは、『マルタのやさしい刺繍』です。

長年連れ添った夫に先立たれ、生きる気力もなくしてしまった80歳のマルタ。あるきっかけで昔の若いころの夢、「手作りランジェリーの店を開く」ことの実現に向け奮闘する、その過程で生きがいを取り戻し、おそらく彼女の人生で初めて「自立」を勝ち取っていくさまが見る者を幸せな気持ちにさせます。

これがベビー服とかパッチワーク品の店とかでなく、ランジェリーというのが利いてる。高級で繊細でこだわりの、ていねいな手作り、刺繍までほどこしてあって、それなのに着ている自分と特別の人しか知らない下着のおしゃれは、それこそ本物のぜいたく。「商品が客層を選ぶ」というところに、マルタの誇りがあります。

舞台はスイスの山の中の小さな農村。北ヨーロッパの田舎の、封建的・伝統的な暮らしを今も続ける村で女性が「革新的な」店を開く、というプロットはジュリエット・ビノシュがチョコレート菓子店を開く『ショコラ』という映画と似ています。

男たちが無理解の分からず屋で、女たちはいじめられてもくじけずに力を合わせて困難を乗り越え、次第に土地の人々に受け入れられていく、という流れも。

ビノシュがチャーミングな『ショコラ』も好きな映画ですが、私がいいなあと思うのは、『マルタ』に出てくる高齢女性3人がいずれも、ランジェリー店開業にかかわるなかでそれぞれに新しい自分を見つけ、自立していく姿に元気をもらえるから。

若い日の夢をもち続けること、それをかなえるためにチャレンジすること、たとえ80歳でも。そういう前向きなメッセージがストレートに描かれます。

映画が終って場内が明るくなったとき、すぐ後ろで女性の「ああーっ」という声がして、「私、マルタみたいなおばあさんになりたい!」とその声が言うと、相づちを含んだ笑い声が周辺におこり、和やかな雰囲気が広がりました。

で、私はいつの日か、着物や古着のリサイクル裁縫店を仕事にする夢を、やっぱり温めていよう、とあらためて心に誓ったのでした。