五味川純平の小説は、高2のとき同級生が「ぜひ」と貸してくれて読みましたが、映画を観てからは圧倒的に仲代達矢の印象が強くなりました。
全部で9時間半、休憩を入れるとほぼ半日間のオールナイト上映は、終わったとき観客同士の間に連帯感が生まれたかと錯覚するような、ふしぎな体験でした。特に6作目の最終場面は涙で曇って見えない状態だったので、気もちが高ぶっていたこともありました。つき合ってくれた友人も目が真っ赤でした。
この映画がどんなにすごいか、改めて観て、言い尽せないと思いました。全編を貫くヒューマニズム、人間の尊厳への限りない希求。戦争の、というより軍隊がもつ非人間性、残虐と狂気を、これでもかというほど告発しています。
物語の全てが太平洋戦争中の中国満州、ほとんど戦場か軍隊か戦地の原野などのシーンで、娯楽的要素のない暗い作品なのに、一流のスター俳優陣をそろえた大作として堂々と制作されたことにも驚きます。興行的にはどうだったのだろう。成功したのだと思いますが。
このTV番組は「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本〜家族編〜」というものです。「戦争映画」のジャンルでなくなぜ「家族」なのか。
そういえば、仲代達矢演じる主人公の妻に寄せる思いが、物語の主軸に据えられていることに気がつきました。戦争を超えた「家族」の映画として見ると、この作品の詩情が立ち上がってくるようです。
本編の前のタイトルバックで映される、たぶん粘土のレリーフは佐藤忠良氏の作品ということも、今回初めてわかりました。ロダンの彫刻作品「地獄の門」にも匹敵するかと思われる、力強い男女の群像です。
佐藤氏は今年98歳で亡くなりました。1年前なら「名誉区民」の称号が贈られたはずですが、区長が変わったからか、そういう話は聞かれません。