理解に苦しむ新演出、でも演奏は格別! -ザルツブルクのオペラ便り①-
2年ぶりにザルツブルク音楽祭にやってきました。さっそくモーツァルトの『魔笛』を鑑賞。またプロダクションが一新されていました。
同音楽祭の『魔笛』は、この10年間で少なくとも5回は演出が変わり作り直しがされています。オペラに限らず舞台芸術は、装置・衣装を含めて演出が変わると全く違った作品になるので、それが舞台を観る楽しさなのですが、ときに理解に苦しむことも。
古典を現代に置き換えるなどは珍しくないからいいとしても、登場人物の設定が原作と違うのは、その意図が伝わらなければ、製作者たちはモーツァルトの作品を愛しているんだろうかと疑ってしまいます。主人公の若者を導く3人の男の子が3人の老人になっていたり、徳の篤い賢人が電気じかけだったりするのは、私には意味不明。
『魔笛』はおとぎ話的な楽しさと説教臭くない教条主義がミックスされた親しみやすいオペラなのですが、製作者が描きたかったのはそういうものではなかったようです。
思うに、こういう作品が生まれるのは会場のせいもあると察せられます。会場のフェルゼンライトシューレは、映画『サウンド・オブ・ミュージック』でトラップ一家が出演した合唱コンクールの会場、といえばわかると思います。石造りの荘厳な異空間は、演出家やセットデザイナーの創作意欲を刺激しないはずがなく、それが個性的な舞台作品を生んできたのは確かです。ただ、度が過ぎると観客に忍耐を強いることになるのですが。
とはいえ演奏のすばらしさは格別、アルノンクールは今回、古楽器を用いたオーケストラでアンサンブルをまとめました。重厚より柔和、緻密というより素朴な 響きで18世紀の音色を引き出していたと思います。歌手たちも、これから国際的な活躍が期待される若手たちのチームワークが心地よいものでした。