ローマ、遺跡をみて思う「人間は正しく進化しているか」 ザルツブルクのオペラ便り②
~そして精神科医の本のこと~
ザルツブルクで2泊した後に訪れたローマは20年以上ぶり。湾岸戦争直後だった91年当時は空港に大きな銃を携えた兵士がいたり、街なかでも軍隊を見たりしました。今はもちろんそんなことはありません。ユーロ危機がいわれるのに有名レストランが長期休暇で閉店中なのはいわゆるラテン気質の如し、なのか知りませんが、世界中の観光客がここには集まっています。でも「日本人かな」というグループのほとんどは、近づいてみると中国か韓国の団体でした。
ローマの遺跡はたしかに一見の価値があります。2千年前のローマ人が高度な建築技術をもっていたこと、上下水道まで完備された中には現在も使用している水道があるというから驚きます。
民主政治の原型ともいうべき議会のしくみをもっていたらしいことにも感心します。議員にあたる元老たちが議論する場や、政治家が民衆に向かって演説する場も設置されていました。ただしその時代は長く続かず、公共のものだった施設は権威の象徴と化していき、また超大型闘技場「コロッセオ」は、民衆が政治への不満から目を外せるための死のゲーム場として残酷な国策をすすめる装置にもなってきます。
さすがに21世紀のいまそんなことはない、と書きかけて思考が止まりました。はたして今の世界全体はそのころよりずっとよくなっているだろうか、と。いったい人間の文化や知性の進化というのはどこへ向かっているのだろう。
そう考えたのは、読み終えたばかりの本、このまえ見学に行った京都のACT-K(こちら)の主宰者、高木俊介氏の新著「精神医療の光と影」のせいかもしれません。精神病が病気と認識されなかった長い歴史があり、つい数10年前まで女性特有の病気としてジェンダーの視点で扱われていた、と知るといまは病気のメカニズムの解明がすすみ、知性は「正しい」方向に進化していて安心します。
この本は高木医師のこれまでの著作からまとめたもので、医療の専門家向けの内容も含んでいますが、いまのACT-Kの活動に至るまでの歴史がうかがい知れます。
ローマの話からそれてしまいました。でもこの本についてはまたいずれ書こうと思います。