「マイスタージンガー」初体験は幸せな出会い ヨーロッパの旅より①
猛暑の東京を逃れて8月9日、ザルツブルクにやってきました。オーストリアの西、ドイツとの国境に近いザルツブルクは北緯約48度、稚内よりずっと北です。音楽の都ウィーンを本拠地にするウィーンフィルの団員たちにとって避暑地にあたり、毎年夏の間町をあげて音楽祭が開かれます。
今年はヴェルディとワーグナーという近代オペラの2大巨匠が生誕200年にあたるため、ザルツブルク音楽祭では珍しくワーグナーオペラが演目に加わりました。ザルツブルクでワーグナーの作品を上演しないのは、ドイツにあるワーグナーの聖地、バイロイトに遠慮してのことかと想像しますが真相は知りません。
その演目とは「ニュルンベルグのマイスタージンガー」、私がこれまで一度も観たことのないオペラです。
実は自称オペラ好きが必ずしもワーグナー好きでないように、私もワーグナーについてはちょっと別です。音楽そのものは嫌いではないけれど、台本もすべて自分で書いているワーグナーは凝り性・完璧主義者として知られ、その独特の物語り性が「ワグネリアン」と呼ばれる熱狂的なファンを一方で生み出しているのですが、その女性崇拝主義というか、必ず登場する「やたら苦悩する男性」が「女性が命を捧げることで救済される」というワンパターンの世界観が苦手で…。
というわけで初めての「マイスタージンガー」体験だったのですが、これがなんと楽しめるオペラだったので意外でした。男女が一目で恋に落ちたり、なぜか歌合戦で優勝できたら娘と結婚できることになりその男ががんばる、というストーリーはオペラとしてありきたりですが、それを舞台化して見せた演出の着想が秀逸でした。
序曲のあいだ舞台上にあったセットの一部が超拡大されて第1幕では教会のセットになり、そこで歌い演じる登場人物たちがみな小人に見える、というしかけ。視覚化された序曲が1幕へと導入する、その引き込み方に観客はあっと言わせられます。
こんない軽やかでいきいきした物語が展開されるワーグナーオペラは初めてです。幸せな出会いだったと言えるかもしれません。それにしても…長い。夕方5時に開演し終わったのが10時40分。ただ観客に忍耐を強いるのがワーグナーオペラの特徴で、正味4時間半は「ふつう」です。