女性が輝く社会に必要なこと、たとえば音楽史をジェンダーの視点で読み直す

国立音楽大学名誉教授の小林緑さんは、歴史に埋もれた女性作曲家たちの存在を掘り起し、その作品の芸術的・歴史的価値はもちろん、女性の自立や尊厳ということにまで光を当てた研究者です。音楽史をジェンダーの視点で読み直した研究は貴重です。

 小林さんの本を初めて読んだとき、私は打ちのめされた思いがしました。自分がオペラやクラシック音楽好きと自認しているくせに、女性作曲家という存在に全く無知だったばかりか、作曲家には「男性しかいない」ことに疑いも関心も持たずにきたこと。平気でいたこと。

 頑なな男性中心主義によって不当に忘れられてきた女性作曲家に対し、著者の寄せるリスペクトと共感の深さに感動しました。改めてわが家にある音楽のCDを片っ端から見直しましたが、女性作曲家によるものはジャズの秋吉敏子や最近のシンガーソングライターくらい…。

 その小林緑さんが企画・構成するコンサートのシリーズ「津田ホールで聴く女性作曲家」が1月9日に開かれるといい、しかも、これがシリーズ最終回で、津田ホールの閉館にあたり惜別の思いを込めての企画だという。けれども残念なことにその時間帯は別の予定が入っており、せめて小林さんの講演だけでも聴きたいと津田ホールに出かけました。

 津田ホールといえば、津田梅子。19世紀から20世紀にかけ女性の自立のために尽力した、日本の女子教育の先駆者です。講演のタイトルは「平等と自由を求めた女性作曲家たち」。津田梅子の精神に呼応するように、19世紀に生きた女性たちの隠れた作品をすくい出して光を当てる講義でした。

 フランス革命を経たヨーロッパでは階級差別に代わって性差別が社会秩序の基底となったこと。それは男性支配社会が法的にも保障されたということ。アングロサクソン系白人男性作曲家が正典となったこと。20世紀が進むにつれ女性作曲家は忘れられ“無名”化していったこと。

 しかし女性作曲家はこれまでに6千人もいたとわかっていること。日本でも吉田隆子という優れた作曲家がいて、権威に抗いながら作曲活動を行いNHKの番組でも紹介されたこと。

 「女性の活躍推進」や「女性の輝く社会」などのキーワードが新しい指針として多用されますが、なんのことはない、昔から女性は存分に才能を発揮し開花させてきたのです。それなのに歴史がそれを隠し埋もれさせてきた。この経過をきちんと検証することが、ほんとうの意味での男女平等をつくりあげるために必要なのだと思います。