水道から地域自治を考える
以前このサイトに書いた「ロープ」という映画は、ある架空の紛争地で安全な水を守る活動に従事する人たちの物語でした。紛争地のような過酷な環境で水は文字通り命綱ですが、水道の蛇口をひねるといつでも清潔な水が出てくる、というシステムは相当に高度なインフラだった――杉並区の消費者団体が開いた、水道事業について考える学習会に参加し、認識を新たにしました。
日本のように水道水がそのまま飲める国はわずかしかなく、しかも漏水率の低さは世界のトップクラスです。これを支えるには多くの人・モノ・カネを必要とし、いま日本の水道事業が困難な課題を抱えていることもわかりました。人口減に伴う水需要と水道料金収入の減少(カネ)、水道管など施設の老朽化(モノ)、職員の減少(人)。この3つです。
2018年に改正された水道法は、これらの課題を解決するためとして民営化に道を開くものです。水道は公営事業と決まっていたのは過去の話。自治体が水道事業の運営権を民間企業に売却できる方式が取り入れられたのです。
この「コンセッション方式」は、水道事業の認可や施設の所有権は自治体が持ったまま民間企業の手に渡るのは運営権だけですが、公的関与の余地は少なく、市民に向けた情報公開の度合いも低くなるため、消費者にとっては問題が多い方式です。
サービスの質の低下や災害時に迅速な対応が取れるのかという問題、地域経済への影響、自治体が蓄積してきた専門技術や人材の消失なども懸念されます。これでは課題の解決どころか、さらに課題を抱えることになってしまうのではないか。
この疑問を裏付けるのが、ヨーロッパなど水道事業の民営化を進めた国々で広がっている、また公営化に戻す市民の運動です。再公営化されたパリでは水道料金が下がり、公共の水飲み場は増設、水道事業の意思決定への市民参加が進むなどの変化があったそうです。
講師の内田聖子さん(アジア太平洋資料センター共同代表)の言う「水は地域自治の基本」という言葉は、公共サービスとは何か、そのあり方を民主的に議論することの必要に気づかされました。また「水道は人権」という言葉は、公共インフラを考える際の新たな視点を与えられた思いです。