中東問題をモーツァルトがオペラにしたら

イスラエルとパレスチナ、暴力の音楽に戦慄

モーツァルトのオペラ「ツァイーデ」は未完のうえ断片の楽譜しか残されていないのでめったに上演されないのですが、「モーツァルトの全オペラ22作品一挙上演」を今年の目玉とするザルツブルク音楽祭で観る機会に恵まれました。

ただしそれは、現代イスラエルの女性作曲家チェルノヴィンの書き下ろし作品と少しずつ交互に演奏する形式での上演だったので、しばらく戸惑い、違和感もありました。まったく異質な音楽が交錯し折り重なるかたちです。

でも舞台の進行につれ演出の意図がわかってきました。「ツァイーデ」はトルコを舞台に、捕虜にされた西洋女性がヒロインのシリアスな物語、そしてチェルノヴィンの作品「アダマ」は、パレスチナの男とイスラエルの女がドイツ語とアラビア語、ヘブライ語でうめき叫び、嘆き呪い、オケの重苦しい不協和音・・・。

目を背けたくなるような場面や暴力を描く場面もあり、イラク戦争での捕虜虐待事件、数々のテロ事件を連想せずにいられませんでした。

そう。ヨーロッパのすぐ隣で、長い過去を引きずりつつ、収束するかに見えていっこうに緊張の解けない中東の情勢を、もしいまモーツァルトが生きていたらオペラの題材にきっと採りあげたのではないか?

そんなことを考えさせられるのも、250年前にモーツァルトが生まれてくれたおかげです。そしてこんな挑戦的な作品が生まれたのも、私たちが刺激的な体験を得られるのも。私は、彼が生まれてくれたことに心底感謝しているひとりです。