在日コリアン家族の哀切とユーモア『焼肉ドラゴン』

経済成長時代の裏面史描く日韓合作劇

たまたまつけたTVで『焼肉ドラゴン』の舞台中継が観られて、ラッキーでした。日本と韓国が共同制作し、ことし新国立劇場とソウルで上演され評判になった演劇。朝日新聞の「回顧2008」で今年の演劇トップ3のひとつに選者5人のうち3人が推しており、どんな芝居なんだろうと気になっていたところでした。

作者の鄭義信(チョン・ウィシン)は在日3世の劇作家で、『月はどっちに出ている』『血と骨』『愛を乞うひと』などの映画にかかわった、優れたシナリオライターです。これらの作品には、社会の底辺に必死で暮らす人びとを活写しながら人間の本質をえぐりだすという、共通した作家性が感じ取れますが、『焼肉ドラゴン』は、そういう力が存分に発揮され昇華された、見事な作品だと思いました。

1970年前後の関西の下町、ガード下で焼肉屋を営む「在日」一家の物語。

血の気の多い店の客たちが繰り広げる乱闘場面は『パッチギ!』を思わせ、被差別民族としての在日の苦悩は『伽耶子のために』『血と骨』、娘たちを次つぎに嫁がせる父親の心情は『屋根の上のバイオリン弾き』、それを支える妻の力強さは『肝っ玉おっかあ』。そして全編を貫く野太いユーモアと、豊かな娯楽性。

大阪万博の時代、貧しい焼き肉屋の家族をめぐるいろいろなエピソードがあぶり出す在日コリアンの歴史は、日本の高度経済成長の裏面史です。なかで悲痛なのは、進学校に通う末息子が家族の面前で自殺してしまう場面。まだ中学生で、学校のいじめを苦にしてというのが両親につらい傷となって残ります。

長女が結婚相手と北朝鮮に渡る送別のシーンは、「楽園」であるはずの「北」で何が待っているのか歴史の事実を知っている観客には、哀切この上なく。おりしも国有地を「不法占拠」していたとして立ち退きを余儀なくされ、離散することになる一家。取り壊される寸前の店での別れは、涙せずにいられません。

演じる俳優が日本人・韓国人の合同キャストなら、台詞も日本語と韓国語がごく自然に入り混じる構成で、それがリアルな効果を上げていたのは、台本、俳優たちの力量、アンサンブルの力がいずれも秀逸だったからこそと思います。

願わくは、ぜひとも再演してほしいものです。