上関原発への静かな告発『祝の島』

原発反対デモがくらしの中にある

 イラスト:西村繁男
 イラスト:西村繁男
『祝(ほうり)の島』は、山口県の上関(かみのせき)原発予定地からわずか4キロにある瀬戸内海の小島、祝島(いわいしま)の自然とそこに生きる人びとの日々のくらしをていねいに映し撮ったドキュメンタリー映画です。

これらの点も、地域を分断する魔の手、原発問題に直面する島の苦悩が描かれているところも、鎌仲ひとみ監督の『ミツバチの羽音と地球の回転』と同じ。『祝』の監督は纐纈(はなぶさ)あや氏。監督が女性なのも同じです。

この映画の上映会をやろう、ということになり1月に仲間うちで試写会をしたとき。同じ題材の『ミツバチ』と比べて地味な画面に、よほど原発問題に関心の高い人でないと見に来てくれないのでは、というのが正直な感想でした。

ところがその場にいた幼稚園ママが「自分のおばあちゃんを思い出して」と涙ぐんで感想を述べたことで、映画の訴える力を信じようと考えが変わりました。

映画は冒頭、上関町議会が原発誘致を可決決定したときの場面を映しますが、その後はひたすら日本の典型的な離島の、開発や繁栄からある意味「取り残された」ような日常を淡々と描き出します。

船上での一人漁、浜でのタコの加工のようすも、棚田での農作業も、1,000年前もこうだったろうと思わせられるのどかな風景です。冒頭の場面がなければ、単に高齢化が進む過疎の村の郷愁を誘う映画と錯覚してしまいそう。

しかしもちろんそうではありません。以前こちらにも書きましたが、30年近く上関のおばあちゃんたちは原発反対運動を続けられるタフな人たちなのです。毎週月曜がデモの日。原発反対デモが日常のくらしの中にある。

画面は原発推進派の人たちを映しません。だからその人たちのくらしも、地域が分断される苦悩も、想像するしかありません。

上映会が行われた5月15日は、奇しくも沖縄の本土返還記念日でした。国策の下で地域に強いられる犠牲、壊されるコミュニティーという点で本質的に同じ問題をはらむことを改めて思いました。