ノーベル賞とゲノム編集
2年ほど前、ゲノム編集食品の学習会に参加したとき講師が、この分野の取組みを飛躍的に進めたのが「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャス・ナイン)」というゲノム編集技術であり、これを開発した科学者はノーベル賞の最有力候補…と話していましたが、今年、そのとおりになりました。
ゲノム編集は、遺伝子の組み換えをねらい通り自在に、正確に、効率よく、短時間で、さらに低コストで実行できる技術だそうです。そのため野菜やコメ、魚、食肉など食品の品種改良、病気の治療や新薬の開発など、多方面において応用が期待されています。
しかし、あらゆる科学技術がそうであるように、負の側面があることも事実です。ひとつは安全性への懸念です。遺伝子を操作するときに目的以外の遺伝子を壊してしまう「オフターゲット」の恐れがあり、そのことによって未知の事態が発生し子や孫の世代にも影響が及ぶ可能性が否定できません。
日本消費者連盟は「ゲノム編集は、遺伝子を壊すことを基本としており、意図的に病気や障害を引き起こすことで品種の改良を行うという、実に粗っぽい技術です」と、ゲノム編集食品への反対を宣言しています。
同様に「ゲノム編集食品を受け入れない」と決議している生活クラブ生協は、食の安全性の問題に加えて「生物多様性が脅かされる可能性」「巨大企業による種子の独占の怖れ」「規制管理ルールがない」という4つの問題点を指摘します。
ヒトラーの優生思想を連想させる「デザイナーベビー」も恐ろしいけれど、なんとゲノム編集で遺伝子操作し生まれた生物が、新たな生物兵器として用いられる可能性があるのだそうです。米国の国防総省が資金提供し開発が進んでいる、と聞くと、技術の進展は何のためにあるのかと考え込んでしまいます。
どんなに英知と努力を尽くした輝かしい業績であっても、人類を滅亡に向かわせる(かもしれない)技術を手放しで賞賛していいのだろうか。とノーベル賞について思ってしまう私は単なる科学オンチか?
科学ジャーナリストの天笠啓祐さんは1970年代からバイオテクノロジー(生物工学)を批判してきた人ですが、96年に消費者団体が遺伝子組み換え表示の義務化を求める運動を始めたとき「技術そのものを拒否しなくていいのか」と思ったそうです。この感性に深く共感します。